面白い電子制御の話 その3
“色”と リモートセンシング
〜 人間の目から地球観測衛星まで 〜
2000.4.26
計測システム大講座 遠隔計測研究室 古津年章色とは何か?――
なぜ空は青いのだろう? 青い光がよく散乱するからです。
なぜ「葉っぱ」は緑なのだろう? 「葉っぱ」は、緑の光をよく反射するからです。
なぜナトリウムランプは黄色いのだろう? 黄色い光を発光しているからです。
なぜ赤いセロハンは赤いのだろう? 緑や青い光が吸収され、赤い色の光だけが透過するからです。
―― 毎日、当然のように感じている「色」にも色々なメカニズムが関係しています。
人間の目 は、可視光と呼ばれる特定の波長帯の電磁波にのみ反応し、異なる波長を異なる「色」として認識します。ある「もの」が「青い」のは、絶対的なものではなく、単に人間がその「もの」からの反射光を目で感じ、それを「青い」と呼んでいるだけなのです。たとえば、蜜蜂は、赤い光を感じることができない代わりに、紫外線を感じ、それを蜜蜂独自の「色」として認識しているらしいことがわかっています。ずいぶん回りくどい表現ですが、そう考えることで、「色」をもっと一般的に捉えることが可能になるのです。
色は何次元か?
この質問をどのように理解するかは、人によってまちまちでしょう。色に次元ってあるの? という質問をなげ返す人もいるかも知れませんね。
結論からいうと、人間の視覚に限定するならば、色はほぼ3次元である、というのが一般的な答えです。(但し、“次元”を別の意味に定義すれば、他の答えもあるかも知れません。) 理由は、例えばよく使われるRed, Green, Blue (RGB) の3原色でほぼ全ての色を表現できる、からです。(例として、本学科4年生の杉光君による http://www.ecs-s.shimane-u.ac.jp/~kuni_s/color.html カラーコード表を参照して下さい。) これは、色は3次元空間の中の点で定義できることと等価であることを意味しており、別の座標軸となる色を定義することもできるはずです。すなわち、原色が必ずしもRGBである必要はないことも理解できると思います。(しかし、RGBの独立性が高く、優れた座標軸であることは確かです。)
加法混色の座標 | MYSと減法混色 | RGBと加法混色 |
別の座標系としては、例えば絵の具やカラープリンタの減法混色の3原色であるマゼンダ(赤紫)、イエロー(黄色)、シアン(青緑)、あるいは色相、明度、彩度などがあります。
虹とRGB
しかし、..という疑問が湧く人もあるでしょう。では、光が3原色でできているのであれば、太陽光をプリズムにかけて得られる七色の虹は何だ? 決してRGBの3つではなく、色々な色があるではないか? あるいは、ナトリウムランプ、あれはRG(赤と緑)のみを発生し、B(青)がないのか? これは、重要な指摘です。すなわち、人間が「黄色」に感じるのはひととおりではなく、青成分が少ない光、あるいはナトリウムランプのように600nm付近の光も同じように「黄色」に感じてしまうのです。繰り返しますが、光が3次元というのは、あくまで「人間の視覚」という観点で捉えた場合なのです。プリズムで分解された光はそれぞれ別の波長をもった光ですが、RGBという3つの波長の光から、人間の目にはほとんど区別のつかない「色」を作り出すことができるわけです。
葉っぱは何色?
またか、と云われそうですね。当然”緑”という答えが多いでしょう。いや、秋には赤や黄色になるし、枯れ葉は茶色だ、などと答える人もいるでしょう。最初に、葉っぱが緑に見えるのは、「緑の光をよく反射するからです」と書きましたが、太陽の光は全ての可視光成分を持っているのに対して、葉っぱからの反射光が緑、ということは、赤や青の成分がよく吸収されるからなのです。なぜ吸収されるか? それはクロロフィルによる光合成のためにそれらの波長の光が使われるのに対して、緑領域の波長は比較的光合成に使われることが少ないからなのです。秋になって、光合成活動が低下し、更に赤や黄色の色素成分が合成されて、赤から黄色にかけての反射率が上昇し、紅葉や黄葉が楽しめるわけです。
このように、「色」は単に物体を区別したり、色彩で生活を豊かにするだけではなく、色を詳しく調べることによって、もっと深く物体の性質を調べることもできるのです。
もっと別の光を!
では、光をもっと一般的に考えたらどうなるでしょうか? すなわち、人間の目には見えないが、もっと波長の長い赤外線や電波で「もの」を見たらどうなるのでしょうか? もっと詳しく物体の性質がわかるのでは?
例えば、葉っぱは、波長0.8ミクロンから1.4ミクロン位の近赤外線と云われる電磁波をよく反射します。この領域の電磁波は、太陽からもまだ放射されているため、近赤外のセンサーを使えば、植物のある地域をよく識別できます。また近赤外では、葉っぱの含水量によって、その反射率が大きく変わる特性があるので、感度のよい植物の活性度モニタが可能と云われています。もし、我々が近赤外まで感度のある目を持って植物をみたとき、我々の世界観は大きく変わるかも知れません。
もっとすすんで、熱赤外線(波長10ミクロン付近)、更に電波(波長 数mm以上)を感じる目を持ったらどうでしょうか? あいにく、太陽からは近赤外より長い波長の電磁波はほとんど放射されません。その代わり地球表面や雲(温度が常温位)の物体からの電磁波放射は熱赤外線が最も多くなっています。その電磁波放射は物体の絶対温度に比例するという特性があります。そのため、熱赤外線のセンサで、物体の温度の測定が可能になります。物体からは波長がもっと長い電波もでますが、微弱なものです。電波を感じるような感度のよい目を持つ生物は果たしているのでしょうか。
リモートセンシングは、現代のエレクトロニクス技術や航空宇宙技術を駆使して、人類が実現した広帯域、高感度の「目」と言えます。リモートセンサで見た世界は、RGBの3原色から構成される人間の目でみたよりも次元の高い世界です。例えば、よく衛星画像でお目にかかるアメリカのLANDSAT衛星には、マルチスペクトラルスキャナ(MSS)と呼ばれる可視から近赤外にかけての4バンドのセンサと、セマティックマッパ(TM)と呼ばれる可視から熱赤外にかけての7バンドのセンサが搭載されています。現在 宇宙開発事業団で開発されている地球観測衛星(ADEOS-2)のグローバルイメージャというセンサは、36バンドの異なる波長の光に感じる目を持っています。また、電波に感じるセンサでは、物体から自然に放射される電波を感じる受動型センサに加えて、自分で光を出す(いや光ではなく電波を出す)能動センサも開発されています。実は、電波を使った能動センサは、天気予報でお馴染みのレーダーなんですが....
リモートセンシング(遠隔計測)で見る多次元世界
このような、人間の目を遥かに超えた能力を持つ「目」であるリモートセンサは、地球環境の監視、天気予報、惑星探査、飛行機や船の安全航行などになくてはならない技術となっています。
次回は、色々なリモートセンサの特徴をもう少し詳しく解説したいと思います。
参考文献
[1] 江森康文,大山 正,深尾謹之介:色の科学と文化,朝倉書店,1979.
[2] 小磯 稔:色彩の科学,美術出版社,1972.
[3] F. F. Sabins: Remote Sensing, Principles and interpretation, W. H. Freeman and Company, New York, 1997.
[4] C.Elachi: Introduction to the Physics and Techniques of Remote Sensing, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1987.